鈴木良明第三歌集『光陰』

あとがきに、われわれは自然界に生息する生物としての「いのちの時間」に立ち返るべく、本歌集のタイトルを「光陰」とした。と記されています。三歳児のパンの歌や虫喰ひの野菜の歌など、日日の時間を愛おしむ著者。私も歌を通して日日を表現していきたいと思う。

土になり水になりそして風になるわれゐなくなり景となりたり

駅ビルの新築オープン店開き何でもあるけど何にもない

〈草花を愛しましょう〉の立て札の柵外に小さきたんぽぽの花

あかねさすニュータウンの街角に〈通報する街〉〈見てる街〉の標語

考へることが利益につながらぬ時代にありてやせほそる知性

昭和館に戦中戦後の映像のニュースのこゑは変はらず元気

翳り濃き今年のさくら咲き満ちて今咲かねばといふやうに咲く

逝くものと生まれくるものせめぎあふ況して生臭き今宵の桜

歴史的分岐点とは如何なりや陽のあたるみち陽のかげるみち

何になるの夢をきかれて三歳児すこしかんがへ「パンになりたい」

三歳の幼を囲みてめいめいのいのちの繋がり確かむる一日

耳奥が湿りがちにて音かよはずこの世はさらにとほのく気分

虫喰ひの野菜はうまし虫の食むやうにおいしくいただくばかり

幼子とするかくれんぼ祖父われを隠れたままにしないでおくれ

紙ずまふ非情なればこそすがすがし勝つも負けるも自づからなる

ジェットコースターの悲鳴聞こゆる戦没者墓地苑はさびし平和の碑文