2021-01-01から1年間の記事一覧

鈴木良明第三歌集『光陰』

あとがきに、われわれは自然界に生息する生物としての「いのちの時間」に立ち返るべく、本歌集のタイトルを「光陰」とした。と記されています。三歳児のパンの歌や虫喰ひの野菜の歌など、日日の時間を愛おしむ著者。私も歌を通して日日を表現していきたいと…

田中翠友第一歌集『ふるさとの駅(ホーム)に立てば』

あとがきに「この歌集は、昨年それぞれ七回忌と十七回忌を終えた母と息子に捧げたいと思います。」と記されている。かなしみも短歌という詩型にあらわすことによって、その心は濾過されて、いつしか、さらに高みへと昇華されていく。 電子辞書開けば覚えのな…

蛭間節子第一歌集『白いカローラ』

歌集『白いカローラ』は、「齢九十歳となり、生涯に一冊の歌集を」と上梓された。著者の天性の明るさに心が救われ、励まされる歌が溢れている。 十月は祭り月なり荒物屋に荒縄一駄どんと置かれて 夏くればふうせんかづらの青き実が今に引きくる風船爆弾 少女…

内田いく子第五歌集『とっぴんぱらりのぷう』

「この歌集は思いがけず米寿の歌集となります。ひとりで生きた私へ、私からのご褒美とする歌集です。」とあとがきに記されている。「とっぴんぱらりのぷう」は著者のふるさと秋田に伝わる昔話の結びの言葉で、「おしまい、めでたしめでたし」の意味があり、…

望月孝一第二歌集『風祭』

御歌と随筆、書評が収められており読み応えのある御歌集。歌集名の『風祭』は望月氏の御両親が疎開され、著者の古里でもある神奈川県小田原市風祭の地名をタイトルとされた。 山行に薄雪草のバッチつけいつも笑むひとその花なくす 若き無着は石もて追われし…

高尾文子第六歌集『あめつちの哀歌』

高尾文子氏は歌林の会、創刊会員の方。あとがきに、戦争、分断、差別、貧困、虐待、そしてまさに目前の疫病まで、紀元前に語られた風景が、はるか久遠の時空を超えて、紀元後の今日の風景に投影されている、又、どの世紀にも人間の普遍のかなしみが充ちてい…