覚悟

母は在宅で最後を迎える事を、選んだ。点滴、延命措置はしない。承諾書に私はサインした。その選択はとても辛いものである。混濁する意識の中で、下着を取り替える私の手を拒否する。背なをさすれば、そばをはなれるように手でサインをする。ひしひしと伝わって来る覚悟を前に、私は狼狽えている。6月20日の日から、隣室に泊まり込んで6日めの朝を迎えた。奇しくも、一年前のこの日私は歌集を出している。

天の川ふりさけみれば祖母の祖母そのまた祖母のとほき曼荼羅

夜のふけに人の果てなど思はるる母の夕餉の独りぶんの箸

谷光順晏歌集『空とかうもり』より