この世の身体

母からは戦争の怖さ虚しさひもじさを教わった。昭和24年生まれの私は最初の頃は軽い話し相手程度に聞いていた。

秒針の音を聞きながら母と二人の部屋にいる。もう何も受け付けなくなった。それなのに少量の便とお小水がでる。最後までオムツをつけなかった。この世の身体を削ぎ落としつつ、枯れ木のようにこの世を去っていくのか。

大き柿ほほばりにつつ母の言ふ 平和の味は何ておいしい

戦争の怖さ虚しさひもじさを母はぽつぽつかたりはじめぬ

谷光順晏歌集『空とかうもり』より