江國梓氏、第ニ歌集『桜の庭に猫をあつめて』
いつの日か我が家も空き家となるのだらう桜の庭に猫をあつめて
花山周子氏の装幀の表紙には五匹の猫が描かれている。猫ではあるが人でもあって。そこに暮らしていた家族の思い出のように温かい。
本当にあつた怖い話をするやうにきみのことずつと好きだよといふ
わたしにもきみにも額摺り寄せて猫は夫婦を縄張りとする
口数少ない人と思つてた三年目にわつと咲いたエゴノキ
血のいろを薄めて薄めて自由なり海月のごとき雑居家族は
蝶を呼ぶ白いタオルを回しつつ霧の重さに縛られてゆく
日本語を話すとき英語を話すとき微妙に変はる娘のせいかく
どこまでが老衰死にてどこからが延命なのか 散る八重桜
逃げてゐた…悔いの数だけたくさんの花を置きたり母の柩に
振り向けば序盤のあの手あの日の嘘 かならずやある道分かつ起点
アスペルガーのレッテルはなく凸凹のこころごろごろ明星ラーメン
喋りすぎと君に言はれたさみしさにしやべり続ける百舌が来てゐる
駅ごとに車内の席を移動する居心地良さは此処にもなくて