篠原節子第2歌集『雨のオカリナ』
これからも全身全霊短歌に精進していきたいという、作者。第一歌集『百年の雪』から三年にして、たちまちの御出版である。
少し勝ち少しは負けて今日は雨、耳あかるます君のオカリナ
とどめ得る若さなどなく手のさびしレモンをひとつゆつくりかじる
同じ時をみんなで生きてゐるんだよ陽だまり岬の素心蠟梅
骨壺の底からきこゆる母の声もう少し自由に生きたかつたと
あんぱんもクリームパンも夕焼けてしんみり重い東京駅は
表情にさびしさ見ゆる介護写真一葉もどしぬ冷えしアルバム
縦じまは男踊りよ、かすりは女 芭蕉布の島は基地消えぬ島
それぞれに亡き人の居て踊りたり命どう宝とさとししおばあ
夢のない顔して車窓にタオル干す男の上にも銀河ながるる
友のゐて夫ゐて子居て師匠ゐてそれでも一人十薬にほふ