藤本満須子第三歌集『如月の水』

作者は1939年生まれの「歌林の会」の方。これまで様々な水の歌を歌い続け、それらの水の歌が作者自身の81年間の根幹となっていると、あとがきに記されている。歌集『如月の水』の表紙の表は、流水文様、裏には雪輪文様が描かれている。流水は、しばしば人生の浮き沈みに例えられ、雪輪は、雪の結晶を文様化したもので豊年の兆しとされている。作者の思いの詰まったこの一冊を正にピタリと表していると思う。

四月の雪スタバの椅子にながめおり芽吹きのいちょう並木濡れゆく

よみさしの『砂丘律』置けばぬめぬめとテーブルにとぶ油吸いたり

八十年生きて命に執着はなけれど痛めば医者に行くなり

左下の奥歯抜かれし空洞にこがらし吹き込む雪文様なり

桜樹のしずくが肩にさくらあめ芽吹くはすぐだ朝の歩道

国のためみごと散りましょ 作詞者の西條八十は死と向きあわず

土佐の雨下から強く撥ね上り靴もコートも地雨に濡れき

スイート·フラペチーノ片手に孫の写メが来るスタバの外に人は流れて