土屋千鶴子第四歌集『一行のスープ』

私は一冊の詩集を出している。1987年、今から33年前の38歳の頃、『しんきろう』というタイトルであった。このたび、土屋千鶴子様より第四歌集『一行のスープ』を賜り、そのなかの

うすくうすく透きとほりたる若き日の言葉のやうにくらげは泳ぐ

の一首に出会い、くらげを詠った詩を思い出した。あの頃のように透き通る言葉で、飾りのない言葉で、一行のスープのように人の心に染みわたる歌が詠めたなら嬉しい。

安全な神さま買ひに行つたのに取扱注意と紅梅わらふ

振り終へたタクトのやうに五重塔黒くしづもる夕焼けにをり

青すぎる夏空の下放牧の馬はすずしく歩みてゐたり

父ねむる墓に花置く沈黙と骨のみ残しし人生もよし

どうしたら希望持てるかといふ講座真面目にメモるサクラのわたし

お役に立てて幸せです 一行がスープのやうにしみわたる恋

こころとは余るものなり捨てにゆく心は〈燃えないゴミ〉に区分す

ほんたうは戸で閉められた世ではなく舗道の隅に揺れてるスミレ

手裏剣のごとく殺意を繰り出せど千年けやきはあくびするのみ

白いゆめ真つ赤に染めて曼珠沙華われの保身の無言ゆるさず

家持の詠みし立山われの見る立山おなじ神様いますか