中平武子第二歌集『しらべは空に』
中平様は第一歌集を編まれた時、歌は自分探しでもあり書き留めることはささやかな生きる証であるとあとがきに記されている。それから16年目のこの度の第二歌集『しらべは空に』では短歌はアルバムのように自分の人生記録であり愛おしいと記されている。
ぶなの木のうちなる音を聞かんとし橅と吾とはひとつになりぬ
沙羅双樹けさ咲きたると散りしもの朝のひかりに何れも白し
菜の花のひとひら一片日を受けて輝く朝はわれも菜の花
朝夢にふはりと吾を抱きとめしひと誰ならん醒めて羞しむ
関はりて七年経ちぬ 逝きし人の介護記録を黒紐に綴づ
簡略に葬られる人よ許したまへ われの拙き般若心経
無骨なる手足を恥ぢて生き来しが転ぶ時にも守られてをり
自づから出づる吐息のふかぶかと身のいくばくか軽くなるらし
顔も手も潰えし羅漢の歳月に保ち来しものわが身にひびく
わが背筋知らず伸びをり仕事場へ日々に通ひし駅過ぐる時
道化師がパントマイムに押してゐるあらざる壁を見てゐる広場